久しぶりの「今月のトリッパ!」はちょっと変化球です。なぜならこちら、牛の胃袋ならぬ羊の胃袋。日本では、いやイタリアでも出会う機会の少ないトリッパ料理をご披露くださったのは、以前トリッパ隊の胃袋を北海道の黒牛で満たしてくれた堀江純一郎シェフです。
このレアなるトリッパ料理、珍しいのは羊の胃袋だけじゃありません。トリッパの下に隠れるジャガイモもまた、日本ではレアな熟成もの。「ジャガイモは寝かせることで水分が程よく抜け、糖質、粉質が凝縮されるんです」と堀江シェフ。イタリアでは、一冬寝かせたジャガイモが普通に売られていたそうです。
日本ではジャガイモは収穫した後すぐに出荷されるものが大半ですが、北海道十勝にある「村上農場」の村上知之さんは、秋に収穫したジャガイモを3℃に保った倉庫で寝かせ、品種ごとに最適の熟成を経たところで出荷しています。その村上さんのジャガイモに惚れ込んだ堀江シェフが、同じく十勝「ボーヤ・ファーム」の生後10ヵ月の仔羊と、「共働学舎新得農場」のチーズを使い、コラボレーションディナーを開催。ご覧のトリッパ含め6品のコラボ料理をご紹介します。
農林1号のピュレ
羊の脳みそのピカタとレバー、心臓、腎臓のソテーマルサラソース
ラクレットとレラ・ヘ・ミンタルのフォンデュソース
「農林1号はポテトチップスなど専ら加工用に使われる品種。食べてみると日向くさいんだけど味が強い。そこで羊の臓物の荒々しさとぶつけたら面白いと思いました。ピュレには動物性脂肪を使わずイモの味をストレートに出し、マルサラソースとフォンデュソースでリッチ感をプラスしています」
北海こがねと羊のトリッパのグラタン
「この料理はジャガイモとトリッパの食感のコントラストが重要です。北海こがねは熱にとても強い品種。スライスして下茹でしてから、トマト煮にしたトリッパと、フォンデュに使ったチーズの残りの固い部分を重ねてオーブンで焼いても、まだ歯応えが残っている。熱に弱い品種だとマッシュポテト状になって、トリッパを受け止められないんです」
男爵のニョッキと羊のラグー フォンデュソース
「男爵は粉質のジャガイモの王様。特に冬を越すと水分が抜けてニョッキに最適です。ニョッキはジャガイモの味が決め手となるので、僕は冬から春の間しかメニューに載せませんでした。羊の骨に残った肩肉、あばら肉、スネ肉を香味野菜や白ワインと煮込み、柔らかくなったら骨から外して叩いて戻す。肉の一番おいしい部分を余さず生かす、トスカーナで覚えたラグーです」
メークインのピュレと羊モモ肉の赤ワイン煮 フォンデュソース
「メークインはエレガントな甘さが特徴ですが、村上さんのメークインはさらに糖度が高く黄色味も強い。僕の赤ワイン煮は、シナモンや八角、五香粉などのスパイスと、黒糖、バルサミコ酢、2種の赤ワインビネガーを効かせた甘酸っぱい煮込みなので、普通のメークインだと負けてしまいますね」
レッドムーン、仔羊の肩肉、ラムチョップのロースト
「村上さんのレッドムーンはサツマイモかと思うくらい甘いんです。そこに塩をビシッと効かせてローストすると、甘じょっぱい、後をひく味に。仔羊のローストも基本中の基本。こうした根っこの技術こそ、リストランテとトラットリアの違いが出ると思っています」
インカのめざめのきんとん風 シナモンムース
「インカのめざめは、甘味とホクホク感がまるで栗のよう。そこで砂糖を使わず、栗の花のハチミツだけで甘味をつけ、きんとんにしました。シナモン、八角、五香粉のムースを合わせ、つなぎに生のリンゴを、食感にアーモンドとオレンジのチュイルを添えました」
ちなみに安西さんは「羊の肩肉とチョップのロースト」を3人前ペロリとたいらげ、村上さんは「北海こがねと羊のトリッパのグラタン」を抱え込んで食べていたとか。
「トリッパ隊の皆さんより召し上がっていましたよ」。生産者の皆さんの胃袋も、レアものだったんですね。(sone)
←村上さんご夫妻。今回のコラボディナーは村上さんのご自宅で開かれました。
→見るからにおいしいそうな仔羊のローストを前に満面の笑みの安西さん。「この羊、人懐っこかったんだよな」
CHECK!CHECK!
私も食べてみたーい、と思った皆様。5月3日(水)~7日(日)の5日間、北海道「ボーヤ・ファーム」にて堀江シェフのコラボ料理を楽しむファームイン企画があります。詳しくはこちらをご覧ください。
堀江純一郎シェフ。96年イタリアに渡り、04年ピエモンテ州のリストランテ「ピステルナ」で、日本人として初めてミシュラン一ツ星を獲得。昨年帰国し、いよいよ東京で店をオープンすべく準備中。オープンまで待てない! という方は、堀江シェフがナイフを携え出張料理に伺います。お問い合わせはメールにて(ただ今イタリア旅行中のため返信は5月以降になります)。pisterna2006@nifty.com
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