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2006年3月27日 (月)

#13 レ・ルシェ・デュ・モルヴァン

モルヴァンの森のハチミツで作るパン・デピス

Img_0127  毎年2月下旬から3月上旬の10日間ほど、パリの南にある展示場で「国際農業サロン」が開催される。サロンは40年の歴史を持つが、その前身となる農産物コンクールは、1870年から行われていた。当時は、牛や豚、羊、馬のみの品評会だったが、現在はワイン、チーズなど多岐にわたる。優秀なものには、金賞、銀賞、銅賞が与えられる。私も、チーズ輸出部門の審査員として3年前から参加させていただいているが、金賞に輝く産物は、ほぼ満場一致でクオリティを認めたものだ。生産者の意気込みを知れる、信頼を高くおける産物ばかりなのである。「レ・ルシェ・デュ・モルヴァン」のアカシアのハチミツも90年代に2回、金賞に輝いている。ミツバチのロゴのその店は、必ず農業サロンに参加しており、毎年スタンドにふらりと寄るのが、恒例である。

「レ・ルシェ・デュ・モルヴァン」は、ブルゴーニュ地方、シャブリ地区の南、コート・ドールワイン街道の西に位置するモルヴァンの森でハチミツを作る。モルヴァンの森は、地方指定の公園で、自然に溢れる、ブルゴーニュっこのレジャーの場。森も深ければ、湖もあり、釣りの盛んな場所でもある。

 その森で1000のRucher(ミツバチの小箱)を持つ、コッパン夫妻。モルヴァン自然公園指定の産物にも指定され、ハチミツやパン・デピスなど、商品はすべてBIOである。モルヴァンの森で採れるハチミツは、アカシア、フォレ(森)、野花が中心。その年によっ
て、菩提樹、栗、タンポポ、杉など様々だそうだ。今年のスタンドに出していた、新ハチミツは、Bourdaine(セイヨウイソノキ)。清涼感溢れ、キレ味のあるハチミツは、初めての発見だった。

「レ・ルシェ・デュ・モルヴァン」のパン・デピスは、パリの百貨店で購入できる。ギャラリー・ラファイエットがわかりやすい。ハチミツを材料の70%も使用しているので、しっとりとしたケーキのような食感。普通パンデピスは薄切りにしていただくが、このパン・デピスの場合、厚切りにして、ふくよかな食感を楽しみたくなる。
 
 モルヴァンの店だったら、森のハチミツ、アカシアのハチミツのパン・デピスを購入できるが、パリでは、クセのないアカシアのみ。紅茶にちょっぴり浸していただくと、スパイスの香りも立って、味わいが倍増するのである。

Les Ruchers du Morvan
Port de l'Homme
D 37 - Route des Settons
58120 Chateau-Chinon Campagne
Tel:03.86.78.02.43(国番号33)

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2006年3月20日 (月)

#12 ローズ・ベーカリー

イギリス人オーナーによる、
シンプルで健康的なスイーツの数々


Kemon  モンマルトルの丘からパリ9区を南北に走るマルティール通りは、近年洒落た店がオープンし始めて、パリでも人気の場所の一つだ。かくいう私も、現在モンマルトルの丘に住み、今から8年くらい前には、このマルティール通りに住んでいたから、人気の場所となる前からこの坂のある界隈は大変気に入っている。

 メトロのノートル・ダム・ロレット駅を降りて、マルティール通りを1番地からモンマルトルの丘へ登るように歩いていくと、何軒かお気に入りの店がある。チーズ屋や魚屋、パティスリーも。
 そんな中に、「ローズ・ベーカリー」が加わったのは3年ほど前のこと。通りの窓辺から店内をのぞくと、白いカウンターに、パリでは見慣れない、でも懐かしいパティスリーや、野菜のタルト、サラダボールが所狭しと並んでいる。そんなおいしそうな風景に、中に入らないで入られなくなる。

 見慣れない、と思ったのはそのはずで、オーナーがイギリスで活躍していた御夫婦のお二人だからだった。スコーンやプディングがそれを物語る。ご主人のカラリーニさんは、フランス人だが、デザイナーとしてイギリスへ渡ったそう。奥様は生粋のイギリス人だ。デザイナーからフードショップ経営に転向。さらに、拠点をロンドンからパリに移した のが2002年の年末だった。

 パティスリーやサラダの並ぶカウンターケースのあるエントランスの向こうには、サロンがあって、ランチも楽しめる。ビオを中心にした新鮮な旬の素材を使ったリゾットやタルティーヌ、サラダなど、健康的でおいしい食事は、パリジャンの心をたちまちにつかんで、昼時はいつも満席だ。また、さすがデザイナーだったオーナーだけあって、肩の力を抜いたセンスの良いシンプルな空間もよし。午後のひとときをゆっくり過ごすのにぴったりで、しばしば時間を忘れて長居してしまう。


Cake_1  そして、この店に来ると、どうしても食べないでいられなくなってしまうのは、ニンジンのケーキだ。フランスには、レストランのデザートは別として、野菜を使った、さらにシンプルなケーキというのは、なかなかない。日本ならば、カボチャだのホウレン草だの、サツマイモだのと、昔から野菜をケーキに使うのは当たり前なのだが。テクスチュアや味わうときの温度にこだわるフレンチパティスリーだが、まだまだこの分野は未開発のようだ。
 ニンジンのケーキは、有機栽培のニンジンをたっぷり使った自然の甘味で、きざんだクルミもしのばせてある。爽やかな酸味でこってりとしたチーズクリームは、白い帽子を被ったような愛らしい見た目。心をふっと和ませてくれる午後にぴったりの優しいケーキなのである。


Rose Bakery
46 rue des Martyrs 75009 Paris
Tel:01.42.82.12.80(国番号33)

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2006年3月16日 (木)

#11 ラ・メゾン・デュ・ショコラ -後編-

メゾン・デュ・ショコラの逸品といえば・・・

Eclair_1  時期はすっかり過ぎてしまったが、クリスマスには、必ずメゾン・デュ・ショコラのブッシュ・ド・ノエルを購入し味わうのが我が家の恒例である。品の良いマロンクリームがたっぷりのブッシュは、贅沢だが、一度味わったら忘れられない代物となる。
 
 そんなマロンクリームムースをたっぷりと閉じ込め、薄いチョコレートでコーティングしたボンボンも冬季限定商品。ミルクチョコレートとブラックチョコレートで覆った2種ある。濃厚で上品なマロンの味わい、気泡もたくさんふくまれた口溶けの良いテクスチュアで、アルマニャックをいただきながら、少しずつ味わいたいような、贅沢な夜のためのチョコレートだ。
 
 先日、これを急に味わいたくなって店へ訪れたが、残念ながら、今年のマロンはもうないため作っていないということ。チョコレート屋にも旬があるのだ。
 
 どうしてもマロンが味わいたいという気持ちが店員に通じたのか、マロン風味のマカロンはいかが?とすすめられた。マロングラッセをそのままつぶしたペーストをクリームに閉じ込めているのか、また、ラムの風味もふんわりと立って、なかなか贅沢なマカロンだった。残念ながら、このマカロンも、もうそろそろ店頭からなくなってしまうに違いない。また、おいしいマロンのケーキやボンボンに出会える、初冬がすでに待ち遠しい。

 旬なくいつでも味わえるメゾン・デュ・ショコラの評判の高いお菓子といえば、エクレア。上質なカカオの味わいをしっかりと閉じ込めたチョコレート味のエクレアは、他のどの店とも比べることのできない逸品である。

La Maison du Chocolat
225 rue du Fbg. Saint-Honoré 75008 Paris
Tel:01.42.27.39.44(国番号33)

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2006年3月13日 (月)

#11 ラ・メゾン・デュ・ショコラ -前編-

手にすれば誰もが心躍る、唯一無比のショコラトリー

Maison  大切な人のための、確かな贈り物を考える時、真っ先に思い浮かぶのが、やはりメゾン・デュ・ショコラのチョコレートだ。エルメスが箱の発注しているという同じアトリエで作られたブラウンのバロタン(小箱)は、外からの衝撃をものともしないしっかりとした作りで、重厚な様相。中に散りばめられたチョコレートの品格そのものをも表している。

 私は、メゾン・デュ・ショコラの、精巧に出来上がったその一粒を味わう時、その創始者でショコラティエの、ロベール・ランクス氏を思わないではいられない。何度か行った取材の中で、取材の内容を超えた、彼の語ったいくつかの言葉が、脳裏に焼きついて離れない。
 
「君ね、人生は長いようで短いよ。その間に、愛するものと出会い、それとともに時間を過ごすことができ、それに心を割けるかが、どれだけ大切なことか。年を重ねるごと、身にしみてわかってくるよ……」

 彼のことを本当に凄いと思うのは、1977年、48歳という年齢で、メゾン・デュ・ショコラをオープンしたということだ。

 ランクス氏は1929年生まれ。フランスでは初めてチョコレートが上陸したというバスク地方出身の彼にとって、ショコラトリーをもつことは、昔からの夢だったという。しかし、戦後、50年代のパリで、チョコレートだけの店では、商売とするには難しかったので、パティスリーとトレトゥールも兼ねた店を55年にオープンした。 

 それから22年。長い道のりを経て、長年の夢を実現させる。一つの思いを持ち続け、人生の折り返し地点を過ぎた歳に、それを叶えるというのは並大抵ではない。
 
 こうした一途な思いは、チョコレートの製作においても同じように注がれる。おきまりのレシピはなく、収穫などによって変化するカカオ豆の味わいに応じて、品種の調合を変えるのはもちろん、フレーバーの調合にも妥協はない。レモンの香りがほとばしるような「アンダルシア」は、冬に味わいたいボンボンチョコレートの一つ。生クリームに入れる砂糖に、レモンの皮をすりつけて香り付けをし、強すぎるレモンの酸味を抑えるという工夫が凝らされ、品の良いガナッシュに仕上がっている。


*写真はレモンの香りが清々しい「アンダルシア」のアントルメ版(手前)、「マロン風味のマカロン」(奥)。

La Maison du Chocolat
225 rue du Fbg. Saint-Honoré 75008 Paris
Tel:01.42.27.39.44(国番号33)

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2006年3月 6日 (月)

#10 ピエール・エルメ・パリ

フランス菓子を、芸術の域にまで高めたパティシエ

Herme  5月に刊行される予定の『パリとパリ近郊のパティスリーガイド』のための原稿も書き終え、ほっと一息をついたところだ。たくさんのパティシエや、パティスリーにかかわる人、編集者などの話を聞き、日仏の菓子へのアプローチへの歴史を調べて、私なりの所見をまとめあげた。この場を借りて、皆さんにお礼を申し上げたい。
 
 そのなかで気づいたのは、進化しつづけるフランス菓子であり、それを支えるフランスの底力だ。他に、菓子として、職人としての仕事を超え、芸術の域にまで及んで、なおかつ進化し続ける菓子を育んでいる国はあるだろうか。そして、芸術家とでも呼ぶべきパティシエが存在するということ。そうした意味で、ピエール・エルメは、19世紀のカレーム、20世紀のガストン・ルノートルに続いて、従来のパティスリー観を崩し、21世紀のパティスリの世界を築き上げた人だと言っていい。
 
 86年から10年間、シェフ・パティシエを務めた「フォション」での傑作といえば、「la cerise sur le gâteau」。背の高い三角柱の形をした6人分のアントルメだ。その形といい、切り分ける時に縦の一辺に入った黄金の線に沿って、上から水平に切り分けていくという斬新なサーヴィスの仕方といい、自由な発想によるパティスリーの誕生をアピールしたのはセンセーショナルだった。
 
 それまでのアントルメといえば、円や四角。デコレーションはその上に華やかに施しただけのもの。それが、パティスリーに意匠を結びつけ、その意匠にエスプリを込めるという発想がエルメによって開花した。カレームも確かに、建築のデザインを取り入れた菓子を創作したが、フォルムにエスプリを込めるところまでは踏み込んでいないような気がする。それは、まるで、日本の和菓子創作の発想に似ているのではないかと思った。

 世界の素材を取り入れ、見事に自分のサヴール(味わい)に構築する力のあるエルメ。02年のクリエイション、あずきを使ったグラスデザートにも果敢な挑戦が読み取れた。

 名前は「Emotion dépaysé(戸惑い)」。ジンジャーとライム風味をしのばせたあずきペースト、抹茶クリームと、グレープフルーツを重ねた構成。我々日本人にとっては、あずきに柑橘類を合わせるという思ってもみない味わいの構成で、その名前の通り、一瞬戸惑ってしまうが、あずきのコクと柑橘類の爽やかな酸味と苦味が、深いハーモニーを与えてくれることを知るのである。
 
 最近のクリエイションは「抹茶風味のミルクチョコレートトリュフ」。抹茶風味をしのばせたミルクチョコレートのガナッシュに、丸のままのピスタチオをのせ、コーティングしてから細かく砕いたピスタチオを全体に散らしている。その色鮮やかさといい、心地よい苦味のある抹茶と柔らかな風味のミルクチョコレート、そして香ばしく鼻に抜けるような香りのするピスタチオのトリオの味わいといい、フレッシュな春を一粒に閉じ込めたような贅沢な味わい。パリの店頭にはもう置いておらず、日本のショップでそれを見つけて購入した。そのデリケートな味わいは、パリよりも微妙に四季が移り変わる日本の空気にぴったり合うような気がした。

PIERRE HERMÉ PARIS
72 rue Bonaparte 75006 Paris
Tel:01.43.54.47.77(国番号33)

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