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2006年3月 6日 (月)

#10 ピエール・エルメ・パリ

フランス菓子を、芸術の域にまで高めたパティシエ

Herme  5月に刊行される予定の『パリとパリ近郊のパティスリーガイド』のための原稿も書き終え、ほっと一息をついたところだ。たくさんのパティシエや、パティスリーにかかわる人、編集者などの話を聞き、日仏の菓子へのアプローチへの歴史を調べて、私なりの所見をまとめあげた。この場を借りて、皆さんにお礼を申し上げたい。
 
 そのなかで気づいたのは、進化しつづけるフランス菓子であり、それを支えるフランスの底力だ。他に、菓子として、職人としての仕事を超え、芸術の域にまで及んで、なおかつ進化し続ける菓子を育んでいる国はあるだろうか。そして、芸術家とでも呼ぶべきパティシエが存在するということ。そうした意味で、ピエール・エルメは、19世紀のカレーム、20世紀のガストン・ルノートルに続いて、従来のパティスリー観を崩し、21世紀のパティスリの世界を築き上げた人だと言っていい。
 
 86年から10年間、シェフ・パティシエを務めた「フォション」での傑作といえば、「la cerise sur le gâteau」。背の高い三角柱の形をした6人分のアントルメだ。その形といい、切り分ける時に縦の一辺に入った黄金の線に沿って、上から水平に切り分けていくという斬新なサーヴィスの仕方といい、自由な発想によるパティスリーの誕生をアピールしたのはセンセーショナルだった。
 
 それまでのアントルメといえば、円や四角。デコレーションはその上に華やかに施しただけのもの。それが、パティスリーに意匠を結びつけ、その意匠にエスプリを込めるという発想がエルメによって開花した。カレームも確かに、建築のデザインを取り入れた菓子を創作したが、フォルムにエスプリを込めるところまでは踏み込んでいないような気がする。それは、まるで、日本の和菓子創作の発想に似ているのではないかと思った。

 世界の素材を取り入れ、見事に自分のサヴール(味わい)に構築する力のあるエルメ。02年のクリエイション、あずきを使ったグラスデザートにも果敢な挑戦が読み取れた。

 名前は「Emotion dépaysé(戸惑い)」。ジンジャーとライム風味をしのばせたあずきペースト、抹茶クリームと、グレープフルーツを重ねた構成。我々日本人にとっては、あずきに柑橘類を合わせるという思ってもみない味わいの構成で、その名前の通り、一瞬戸惑ってしまうが、あずきのコクと柑橘類の爽やかな酸味と苦味が、深いハーモニーを与えてくれることを知るのである。
 
 最近のクリエイションは「抹茶風味のミルクチョコレートトリュフ」。抹茶風味をしのばせたミルクチョコレートのガナッシュに、丸のままのピスタチオをのせ、コーティングしてから細かく砕いたピスタチオを全体に散らしている。その色鮮やかさといい、心地よい苦味のある抹茶と柔らかな風味のミルクチョコレート、そして香ばしく鼻に抜けるような香りのするピスタチオのトリオの味わいといい、フレッシュな春を一粒に閉じ込めたような贅沢な味わい。パリの店頭にはもう置いておらず、日本のショップでそれを見つけて購入した。そのデリケートな味わいは、パリよりも微妙に四季が移り変わる日本の空気にぴったり合うような気がした。

PIERRE HERMÉ PARIS
72 rue Bonaparte 75006 Paris
Tel:01.43.54.47.77(国番号33)

2006年 3月 6日 |

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