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2006年2月27日 (月)

#9 帰国、そして、表参道ヒルズ「TORAYA CAFÉ」

torayacafe  6カ月ぶりに帰国した日本。ちょうど伊勢丹新宿店での「サロン・ド・ショコラ」が終了した後、またバレンタイン・デーを目前にして、メディアもあらゆる店もチョコレート一色だった。特に、伊勢丹新宿店の地下は、「サロン・ド・ショコラ」熱がさめやらないようで、特別に設置された名ショコラティエコーナーに入場するのにも長蛇の列。たまたま、チョコレートのパッケージを手がけるフランス人の友人と訪れたが、彼女は日本人のチョコレート熱に驚いていた様子で、また、日本のパッケージのきめ細やかさにも惚れ惚れ。

 そんな中、ジャン=ポール・エヴァンから表参道ヒルズのオープニングに誘われ、足を運んだ。エヴァンの店は、エントランスのすぐ右手にあるという一番の立地条件。訪れていた山本益博氏からも「一番いい場所、おめでとう」と声をかけられていた。小さな店舗だが、ショーケースに、珠玉のパティスリー・チョコレートが宝石のように並ぶ。安藤忠雄の硬質だがロハス的なスパイラル・スロープへと誘う適役者だと思った。

 そのちょうど階下に、たまたま「TORAYA CAFÉ」を見つけた。まったく前情報なく訪れたのが恥ずかしい。店に長尾智子さんがいらっしゃったので、声をかけた。彼女は、六本木ヒルズの同店のメニューも手がけていらっしゃる。表参道ヒルズにも彼女がてがけた新商品と新メニューが並んでいた。

 TORAYA CAFÉは、中興の祖、黒川円仲氏から480年以上もの歴史を誇る老舗とらやが、料理研究家として新しい料理の創作に取り組む長尾さんを起用して立ち上げた、カフェという形の新ブランド。和洋の垣根を越えた
革新的菓子を発表したことで、和菓子業界にも新風を吹き込んだのでは、と六本木ヒルズ店のオープンから感じていた。寒天を使った「キャラメル寒天ゼリー」、「あずきとカカオのフォンダン」などの和素材を使ったケーク類は、フランス人のシェフが味わったらどう表現してくれるだろうと、胸を高まらせた。

 表参道ヒルズ店で、新しいデザートをいただいた。「あんペーストプレート」と「いちごのパフェ」。前者は、個性豊かな味わいのあんペースト3種(糖蜜とプルーン・白ごまときな粉・青豆きな粉とピスタチオ)を中心に、3色ふやき、ごまのクロッカン、きな粉の厚焼きビスケット、ミルク寒天ゼリーにあんペーストで作ったソースを重ねたグラスデザートを一緒に楽しむという趣向。ヨーロッパのペーストにはない、餡ならではの瑞々しいテクスチュアに、個性的な味わいを加えた複合的なペースト。ふやきなどとの相性は抜群で、フランスのタルティーヌのように、ペーストをたっぷりとぬっていただきたいと思わせる説得力があった。
 
 また、イチゴのパフェも秀逸だ。コップの中に、たくさんの要素が詰まった、新しいグラスデザートの誕生。グラスには、中途半端な高さでなく、水を飲む時に使う普通の背の高いコップを選んでいるのも、中を見せるのにもよく、日本の甘味の魅力が発揮されていると思った。下からあずき茶寒天ゼリー、あんペースト(こしあん)を混ぜたクリーム、あずきとカカオのガトー、イチゴ、ブルーベリー、イチゴの寒天ゼリー、あんペースト(こしあん)、豆乳アイスクリーム、クリームと重ねられ、下へスプーンを沈めるごとに、味わいと食感、香りのハーモニーに出会える、まさに五感で楽しむデザート。全体に散りばめられた、もち米のスフレがかりかりと心地よい食感を与えてくれるのも、印象的だった。

 昨年、パリで、福田里香さんとともにギャラリー「フレッシュ・アティテュード」で「berried」と冠したエクスポを経験した長尾さん。フランスは、日本と同様、歴史や文化の奥深い国だから、日本の和菓子の進化形をきっと深く理解してくれるはず、と語る。私もパリでシェフから同意見をもらっていたということもあり、こんな両者の思いが、きっと一つになる時がくる、と確信。パリのとらやで、そうした彼女のデザートがいつか紹介されることを願っている。

TORAYA CAFÉ 表参道ヒルズ店
渋谷区神宮前4-12-10
表参道ヒルズ本館B1F
Tel:03-5785-0533

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2006年2月23日 (木)

#8 フォション -後編-

フォションのスペシャリテ、エクレアに自分らしさをこめる

IMG_0272  フォションのコンセプトを作り出しているのはディレクション側なので、シェフ・パティシエであるアダム自身は、フォションというブランドイメージを作るためだけに、クリエイションをしているというような印象も拭えない。それ故、彼自身のキャラクターはいまいちわかりにくいのというのは本当のところだ。
 
 ただ、そんなアダムが、そうした枠組みの中で、自分らしさを出そうとしているのが、やはりフォションが長年スペシャリテとしてきたエクレアのシリーズではないかと思った。彼は2年間で25種ものエクレアを作ってきたそうである。シャンパンとフランボワーズ風味や、スパイスビスケットのスペキュロス入りクリームのエクレア。イチジクや有塩バターのキャラメル風味、オレンジ風味のチョコレートエクレアなどなど・・・。どうして今まで、エクレアは、チョコレート風味とコーヒー風味しかなかったのだろうと思わせるような品揃えである。
 また今年夏には、ミントとヴァニラ、パッションとローズ風味のエクレアを発表予定だそうだ。こんな味わいをエクレアにするなんて! という驚きを得たり、また味わいにぴったりのモダンな様相のグラサージュに出会うと、アダムは楽しんで作っているのだろうな、と思う。しかし、一つひとつを吟味すれば、味わいの組み合わせなどもシンプルでコンサバ的。奇抜さよりもクラシックを愛するアダムの顔を垣間見ることができる。残念ながら抹茶風味はないが、作るのだったら、「サダハル・アオキ」の真似といわれないものを作らなければならないだろう。
 
 もちろんフォションはお茶の品揃えでも長年知られているから、お茶風味のパティスリーを作ることが、歴代シェフの課題だった。ダージリンティは扱いやすいので、エクレアやクリーム・キャラメルなどに、積極的に使われているが、抹茶の存在はまだ薄い。ただ、アダムは抹茶とマンゴーとのエキゾチックな組み合わせが好きなようで、1年前は、マンゴーのムースに抹茶の風味を加えたタルト。そして2006年1月には、抹茶と、マンゴースライスを加えたフランジパンを仕込んだ、変わり種のガレット・デ・ロワも紹介していた。
 
 時代を読むフォションのことだから、これから旬の日本の素材を使ったデザートも提供していくことだろう。料理のエクゼクティブシェフが狐野扶実子さんとなって、どんな展開を図っていくのかも、楽しみである。

Fauchon
place de la Madeleine  75008 Paris
Tel:01.70.39.38.00(国番号33)

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2006年2月20日 (月)

#8 フォション -前編-

現代の客が何を求めているかを読み、その先を創出する

IMG_0266  1886年創業の高級食材店「フォション」。マドレーヌ広場に面して建つ、一目でこれとわかる華やかな外観で、昔から、フランスを始め世界中のグルメたちを引きつけてきた。
 
 一昔前の、素敵なエピソードをご紹介したい。ある老夫婦が金婚式を祝うのに、他には滅多にないような思い出に残る2人だけのディナーを考えたという。それは、パリのセーヌ川に架かるある橋の上にテーブルを設定すること。その橋には半円形の突出口がいくつかあって、そこは、恋人たちが腰掛けるのにぴったりのベンチになっている。
 老夫婦は、パリの高級食材店に頼み、橋の上のテーブルセッティングとディナーを用意してもらった。そこに通りかかるは、パリ警察。立ち退きを命じようとしたが、金婚式のための特別なディナーと聞いて、快く承知したという。粋な計らいはフランスらしい。
 ひらり舞うテーブルクロス。蝶ネクタイのギャルソンがシャンパンを抜き、エッフェル塔を眺めながら乾杯をするひとときは、永遠のように美しかったに違いない。このディナーを引き受けた高級食材店がフォション。お客の依頼に100%応えるというのが、店のモットーなのである。
 
 こうした高級食材店としての名声に加え、ピエール・エルメの登場によって、パティスリーとしての名も高くした。エルメがシェフ・パティシエに就任したのは1986年。ちょうど100周年を迎えた時。97年まで務めたが、この間たくさんの名だたるパティシエを輩出したのは知られるところだ。今、ボン・マルシェの「デリカバー」を指揮するセバスチャン・ゴダールがエルメ後のシェフを務め、01年退職して、その座をクリストフ・アダムに譲り、アダムが現在のパティスリー部門を指揮する。
 
 2006年、フォションは120周年を迎えた。この記念すべき年を前に、昨年は、ちょっと変わったシリーズのパティスリーを発表して話題になった。何でも“スプーン入らずのパティスリー”がテーマだったそう。サンドイッチボックスに入った“Club Cake”と、シガーケースのような細長い箱に入った“Tout de suite”の2種。Club Cakeは、チョコレート、フランボワーズ、ピスタチオ味の3種フィナンシエのサンドイッチ。Tout de suiteは、箱の端を押すと、パティスリーが飛び出して、手も汚さず食べられる、細長い形のタルト風サブレだ。Tout de suiteは、購入したら、Tout de suite(すぐに)食べられる、から命名されたのだろう。
 いずれも、歩きながらでも食べられるという、新しい食べ方を提案。現代の客が何を求めているかを読み、その先を創出するというあり方に関しては、今も昔も変わらないのかもしれないが、今はスタイルを重視しているようである。


Fauchon
place de la Madeleine  75008 Paris
Tel:01.70.39.38.00(国番号33)

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2006年2月 6日 (月)

#7 ボン・マルシェ

高感度な人たちが集まる百貨店のパティスリー事情

 ボン・マルシェ食品館「グラン・デピスリー・ ド・パリ」の2階には、セバスチャン・ゴダールが控えるが、1階の入り口付近にあるパティスリーコーナーも売れ行きはとてもいいようだ。

 以前は、MOFのニコラ・ブッサンがシェフ・パティシエを務めていたが、現在は、MOF料理人のジャン=ジャック・マセの指揮下にあり、他コーナーに比べると仕上がりのクオリティに欠けるように見受けられる。それでも、日本の素材を使ったパティスリーが展開されていたので、目を見張った。

Bon2_1   ひとつは「Mirlithe(ミルリテ)」。けしの実をふんだんに焼き込んだビスキュイにシロップを含ませ、柑橘系のジュレを敷き、抹茶のクリームを重ねたもの。もうひとつは、グリーンティーとミントのマカロンだ。

 セバスチャンが言っていたように、ボン・マルシェ食品館の客層は、より新しい食材や食品を求めてくる高感度な人たちが多い。だからこそ、お決まりのパティスリーではなく、より新しさを感じさせるような何か、が求められる。それは、フォルムであったり、食べ方であったり、味わいであったりするだろう。そんなお客の心をくすぐるものとして、抹茶、緑茶が選ばれたということ。食品館1階の奥にある、お茶専門コーナーにも、抹茶や緑茶が売られている。

Bon_1  肝心のお菓子だが、正直言って、大量生産的な側面が見え隠れし、見た目からはあまり魅力を感じなかったが、味わってみると、これがなかなよい。ミルリテは、けしの香ばしい味わい、そしてしっとりとしたビスキュイと抹茶クリームのテクスチュアのハーモニーがよく、爽やかな柑橘系の風味が、全体の味わいを助けてくれている。また、緑茶とミントのマカロン。そのけばけばしい色合いはさておいて、ミントの香りに負けず、緑茶の芳香が立ち、オリエンタルな調和を奏でていたのは、悪くない発見だった。

 大きな百貨店食品館は、今の傾向を如実に表すので、こうした日本びいきの傾向は、これからも深まりそうな予感である。


Grande Epicerie de Paris
Bon Marché 内
26~38 rue de Sèvres 75007 Paris
Tel:01.44.39.81.00 (国番号33)

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2006年2月 2日 (木)

#6 パン・ド・シュークル -後編-

“引き算の文化”と“組み立てる文化”

Paindesucre2_2   ディディエとナタリーは、ピエール・ガニエールが日本に招聘されたおりに、スタッフとして一緒に日本へ渡ったことがある。その時に、ヨーロッパとはまったく異なる料理文化や初めて味わう料理や素材にも驚き、感激したと言う。
 が、もっとも彼らの心を打ったのは、料理人の仕事ぶりだったそうだ。日本人の正確な包丁使いや、一つの料理や菓子を作り上げる時の厳密さ。だからこそ仕上げられた皿の上の料理は、芸術品のように見えた。また、皿作りにおいても、不必要なものはとことん省くという“引き算の文化”のすばらしさに触れた。現在の店の、見た目のシンプルなパティスリー創りは、それに追うところが大きいという。
 
 しかし、シンプルさに加え、ヨーロッパ的な“組み立てる文化”の要素も、2人の創るパティスリーに見え隠れするのが、とても面白い。西洋に、東洋的な要素が上手く融合して、2人の世界として昇華しているパティスリーばかりだ。
 
 例えば、フェノメーヌ。白い雪のようなドーム状で、ブルーベリーを3つ、細い串に刺して、その上にはかなげに直立させている。白いドームの部分は、ふんわりとしたココナツ乳のムースでできており、それにナイフを入れるとカシスのコンポートが流れ出す、サプライズのあるパティスリーだった。とても構築的なのに、隠されたところにある美があるとする日本の精神をも、感じさせられ、どきりとした。

 ピエール・ガニェールではすでに、日本の素材に慣れ親しんでいた。例えば寒天。薄いフィルム状にした寒天ゼリーで、デザートを覆ってローブのようにしたてたり、ゼラチンで作るゼリーとの食感の違いを楽しませたり。店では当初、例えば薄い膜のように仕上げた寒天ゼリーをパティスリーの上にのせる、などの試みをしていたが、寒天フィルムは
すぐに湿度をすってべったりとしてしまうので、それを使うのは諦めてしまった。
 だが、好奇心の強い二人は、これからも日本の素材には挑戦していきたいそう。1月のガレット・デ・ロワの時期が終わったら、梅酒や餡を使って、新作を考案する予定だそうだ。
 
 去年秋に、改装オープンして、チョコレート色のシックな内装に変化したパン・ド・シュークル。マイブームとなっているお菓子は、砂糖がけしたフルーツ・コンフィの上品なテクスチュアが、スパイシーで柔らかな生地から現れるパン・デピスと、クランブル生地で覆われた、かりっとしたテクスチュアが印象的なフレッシュなエクレア。クラシックなのに新しい、アイデアの宝庫。日本の素材をどんな風に調理してくれるのか、いまから胸が高まってしまう。


Pain de Sucre
14 rue Rambuteau 75003 Paris
Tel:01.45.74.68.92(国番号33)

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