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2005年12月22日 (木)

#2 デリカバー -後編-

日本への理解が新しいアイデアを実現へと結びつける

Buche2  11月、ホテル・ブリストルで開催された『パリのティ・ガイド』の出版パーティで、著者のジル・ブロシャールが選ぶ10ほどのメゾンが出店していたが、その中にデリカバーも含まれた。セバスチャンが出品したスペシャルパティスリーは評判となり、瞬く間になくなってしまった。それは、ライススフレを抹茶クリームで覆い、ごまのサブレに乗せたプチフール。口当たりといい風味といい、いいしれなくチャーミングで、シャンパンとの相性が抜群によかった。
 
 また、毎年12月上旬に恒例のフィーディングイベントでは、パレ・ド・トーキョーのソワレに出品。それは、コニャックをベースに、イギリスのリンゴの品種ブレッドバンのジュースを加え、何と黒ごまペーストを加えたカクテルだった。一晩で800杯もの黒ごまカクテルが飛ぶように干されたそうだから、これも至極評判だったのだろう。残念ながら、このイベントには参加できなかったので、話だけで満足しなくてはならないが、香ばしい黒ごまの香りと味わいが、いぶしたような熟成した香りを放つコニャックにぴったりだったそう。それに昔ながらの品種であるリンゴのジュースが、フレッシュなノートを加えたそうだ。
 
 セバスチャンは、こうしたイベントの持つ特殊性を利用して、新しい試みを次々に実践していて頼もしく思う。

Buche1  今年のクリスマスのブッシュには、抹茶ロールが登場。栗のクリームにキルシュ漬けのグリオット種サクランボウを閉じ込め、抹茶のスポンジケーキで巻いた、正真正銘のロールケーキである。抹茶スポンジ生地、栗のクリームだけだったら、多分ハッとしなかっただろうが、甘酸っぱいサクランボウが、色合いもさることながら、全体の味わいをキュッと引き締めて、何度でも味わいたくなる。

Delicabar  また、抹茶を閉じ込めたブラックチョコレートの丸いボンボンを、ツリーの飾り付け用に仕立てたのも、グットアイデア。



「日本もフランスも、深く長い文化を持つ国。だからこそ、お互いが尊重しあい歩みあい、交感しながら新しいクリエイションが生まれるのだと思う」と言うセバスチャン。来年はどんなクリエイションを見せてくれるのか、とても楽しみだ。

Délicabar
Bon March
é 2F
26~38 rue de Sèvres 75007
Paris
Tel:01.42.22.10.12 (国番号33)

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2005年12月19日 (月)

#2 デリカバー -前編-

機は熟し、クリエイションが華開く

Matcha  左岸の百貨店「ボン・マルシェ」の食品館の2階、女性のモードショップに囲まれた中央に、広々としたサロン・ド・テ・スペース「デリカバー」がある。
 オーナーは、セバスチャン・ゴダールさんで2003年の秋にオープンした。ピエール・エルメ氏のあとの「フォション」のシェフ・パティシエを務めたことで知られるナイス・ガイの彼は、デザイン力・企画力が高く、これからのパティスリー界に新風を吹き込んでくれる人だと思う。
 
 セバスチャンは、最近、殊の外日本の素材に興味を示して、クリエイションに積極的に取り入れている。
 例えば、抹茶のタルト。卵と牛乳、バターと砂糖を控えめで加えたとろりとしたアパレイユに、抹茶味を含ませたクリームを、パート・シュクレに閉じ込めた。渋めのグリーンが焼き色のきれいなタルト生地に映える。自然の抹茶の味わいが、柔らかなクリームからすっと爽やかに現れる、飾り気のない、でも洗練された構成に、伝統とモダンを知るバランスに優れたセバスチャンの力を感じさせられる。
 
 彼が、はじめて日本の素材に出会ったのは9年前、フォションの企画で日本を訪れた時で、当時26歳だったそうだ。その頃はまだ、人として成熟していなかったため、日本の素材や料理に驚くことがあっても、それを自分の中に取り込むことは適わなかったという。少しずつ、経験を重ねるに従って、コピーするのではなく、自分の表現方法として取り入れたいと思うようになった。フォションでは実践しなかったが、それを「デリカバー」で結実させたのである。
 
「デリカバー」は、場所柄、高感度人間の集まる場所。「フランス人は、基本的に保守的。でも、この場所のお陰で、新しい試みにも強い手応えを感じている」と言う。抹茶風味のヴィネグレットソースで和えた、紫蘇入りのグリーンサラダも評判がいいそうである。
新しいアイデアを受け止めてくれる客がいる、というのは、何といっても店として理想型だろう。

Délicabar
Bon March
é 2F
26~38 rue de Sèvres 75007
Paris
Tel:01.42.22.10.12 (国番号33)

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2005年12月15日 (木)

#1 ラルチザン・デ・サヴール -後編-

庶民的なほうじ茶を、ノーブルな味わいに仕立てる魔術

Artisan2 「ラルチザン・デ・サヴール」は、今年2005年11月、 L'IF社から出版されたばかりの『パリのティーガイド(Le guide du the a paris)』でサロン・ド・テ賞に輝いた。お茶のセレクションやサービスへのこだわりは半端でないばかりか、アフタヌーンティー時に味わえるデザートやパティスリーも優れているからだろう。時に、グランメゾン級のレストランを凌ぐような革新的なデザートに出会える店である。前回紹介した“マッチャ・マロ”もそんな斬新なお菓子の一つ。

 アニス風味のガレット・デ・ロワは、毎年1月の恒例として食べずにはいられないし、胡麻サブレに重ねたココナッツのブランマンジェは、定番デザートとして試したくなること、しばしば。6月開催された<パリ・マカロン・コンクール>で、この店のレグリース(甘草)風味のマカロンは、オリジナル部門で見事優勝を収めている。

 そのマカロン、ほうじ茶風味のチョコレートガナッシュ入りも秀逸である。
「ほうじ茶の持つ、栗やノワゼットを炒ったような、カンパーニュパンをトーストしたような香ばしさに魅了されました。そこで、チョコレートとの相性も抜群だと思って」とパトリックさん。

 マカロンにその香りを閉じ込めてみようと、生クリームでほうじ茶を煮出し、香りをつけてガナッシュチョコレートを作り、普通のマカロンよりもひと回り小さい、直径3センチくらいの小さなマカロンに挟んだ。
 ひと口含むと、私たち日本人がよく知っている、庶民的なほうじ茶の味わいが、非常にノーブルに変化(へんげ)しており、冬の夜に合う重厚な大人の味わいに仕上がっているのは驚きだった。濃く深い味わいなので、小ぶりなのも、心地よい大きさ。

 聞くと、ほうじ茶を煮出す時、いぶした木の香りのする台湾のタリースーションティーをほんの少し加え、ほうじ茶に複合的な深みを与えたという。おなじ味わいのコンビで、アイスココアも作ったことがあったというが、体を癒してくれるような繊細な味わいの仕上がりに、大変満足だったそうだ。
 錬金術師とでもいっていい彼の魔術に、魅惑されるひとときであった。

L'Artisan des Saveurs
72 rue du Cheche-Midi 75006 Paris
Tel:01.42.22.46.64 (国番号33)

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2005年12月12日 (月)

#1 ラルチザン・デ・サヴール -前編-

素材を通して日本の風景を思い浮かべる

Artisan1    “Matcha-Mallow(マッチャ・マロ)”
 
飛び立ちそうなくらい軽やかな見た目に加えて、そのファンタジーな名前にも心がとろけてしまう、その名の通り、抹茶風味のマシュマロ。

 創作者は、サロン・ド・テ「ラルチザン・デ・サヴール」のオーナー、パトリック・ルスタロさんだ。もともとパティシエだった彼は、エヴィアンの「ロワイヤル・クラブ」やパリ7区の魚専門店「ディヴレック」などのシェフパティシエも務めた、知る人ぞ知る才能の持ち主。ラルチザン・デ・サヴールでは、1998年のオープン来、質の高いお茶を提供しながら、パティスリー、お料理のレシピも手がける。

「私は日本へ行ったことはありません。でも、日本の素材は、それだけで日本の風土を伝えてくれるもの。たとえば、抹茶からは、いきいきとした緑のある風景とともに、クリスタルのように澄んだ海、揺らめく海藻などが思い浮かぶのです」

 フランス人にとって、日本的な味わいを表現するのに、抹茶は採用しやすいアイテム。カカオプードルのように、既存のレシピに加えればいいだけだからと、ケークやマドレーヌなどに多用される。そんな使い方には反対、抹茶の繊細な面を引き出すのにぴったりのレシピを探求しなければ、とパトリックさん。そこで、砂糖もゼラチンもできるだけ控えめにして作った、ムースのように口溶けの良いマシュマロに合わせたら・・・とひらめいたそう。さらに、レモン汁をほんの少しだけ加えて、抹茶の持つヨウ素の香りを抑え、より洗練された味わいにし、仕上がりには、ココナツフレークを散らした。

「日本は、私たちヨーロッパの人間にとって、神秘な異国の地。そんな面を、やはりエキゾチックなイメージの強いココナツで強調してみたのです」

 既存のマシュマロ像を覆す気泡たっぷりの生地。それがしゅわりととろけると、今まで感じたことのない、新緑の息吹のような抹茶の香りが鼻へと抜けた。南国の太陽をイメージさせるような甘く切ないココナッツの味わいが、それを追う。なぜか、新芽にはらりとかかる春の雪と、そのフレッシュな空気を思い起こさせ、ノスタルジックに。

 エキゾチックフルーツエキスを閉じ込め、チョコレートで薄くコーティングした、同じテクスチュアのマシュマロもすばらしい。かりっとはじけるチョコレートから、しゅわりととろけるマシュマロが現れ、異国の香りが溢れるよう。繊細な香りを生かすのは、他味わいとのハーモニーもさることながら、テクスチュアの妙でもある、と感じさせられたのだった。
*次回更新は12月15日です。
  
L'Artisan des Saveurs
72 rue du Cheche-Midi 75006 Paris
Tel:01.42.22.46.64 (国番号33)

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