« 日本のヌーヴォーを知っていますか? その6 | トップページ | フランス・ビオ界のスーパースター山梨訪問記 #1 »

2005年12月15日 (木)

日本のヌーヴォーを知っていますか? 最終回

 日本のヌーヴォーについての連載は、今日が最終回。最後に今までのイメージとは違った印象を与えてくれた2本を紹介して、このシリーズの〆としたいと思います。

 世界には異なる種類のブドウを掛け合わせた交配種がたくさんあります。そして日本では、交配種から造ったワインが意外と多いのです。これらのワインはベリーA同様、やや個性的な香りがするため、ワインとして軽視されがちです。セイベル種もヨーロッパ系品種とアメリカ系品種の交配種なのですが、交配自体はセイベルというフランス人によってヨーロッパで行なわれました。「セイベル」は名前の一部で、正式にはこの後ろに番号がついています。セイベル9110セイベル13053というように。実際には万を超えるセイベル種があるようで、9110は白、13053は赤です。

 今年はこのセイベル種で造ったキュートなワインに出会いました。そそられる甘い香りにとろんとした甘さとピチピチした酸。甘口ではありますが、うまくバランスのとれた味わいにびっくり。以前、ご紹介した甲州ワイン同様、こちらも心を癒すやさしさを持っています。奥出雲葡萄園の安部紀夫さんのワインです。

 そしてもうひとつ。このシリーズの最後にお勧めしたいのはワインではなく、甲州ブドウのジュースです。ワイナリーを訪れるとワインだけでなく、ブドウジュースを売っているのを見かけることがあります。ただし、フレッシュなブドウを搾って造ったジュースって、実は非常に稀少。ほとんどが濃縮還元ジュースです。しかし、フジッコワイナリーの甲州ブドウジュースは違いました。フレッシュな甲州ブドウで造ったジュースは、その名も「葡萄の上手な搾り方」! 色合いも香りも、従来のブドウジュースとはかけ離れています。クイクイ飲めちゃうさっぱり感が魅力です。今までブドウジュースが苦手だった方にもお勧めです。

■今までのイメージをくつがえす驚きの1本

nw-okuizumiwhite 奥出雲ワイン 新酒白 720ml(1365円)
品種:セイベル9110/白 やや甘口/ワインメーカー:安部紀夫
11月7日発売 1458本

奥出雲葡萄園 
モモの缶詰のシロップのような甘い香りが郷愁をそそる。とろっとした果実の甘さに続き、ピチピチした酸が感じられ、フレッシュ感たっぷり。素直に美味しいと思える甘口ワインに仕上がっている。安部さんのワインにはなぜかこの優しい印象が伴う。セイベルはヨーロッパ系品種とアメリカ系品種の交配品種とされている。ワイン通には軽視されがちな品種だが、やさしさとフレッシュ感を持ち合わせたこの新酒、是非お試しあれ。

nw-juice (左から)葡萄の上手な搾り方(840円)
12月1日発売 7500本
フレッシュ甲州ぶどう搾りたて果汁(735円)
10月初旬発売 800mlパック
いずれもフジッコワイナリー 
これがブドウジュースだと、にわかには信じがたい色合いと風味。ブドウジュースにありがちなべたっとした甘さは全く感じられない。リンゴのような爽やかな香りと果実味が魅力。後口の切れ味も良く、クイクイ飲める。甲州ブドウの果実味を生かすために、低温加熱処理(牛乳の低温殺菌と同じです)をしている。

*上記のワイン、ジュースはワイナリーから直接購入できます。

 ところで、ボージョレ・ヌーヴォーの原料となっているガメイは、ほかの品種に比べて収穫時期がかなり早めです。ボージョレーのすぐ北隣の銘醸地、ブルゴーニュのピノ・ノワールより、一足早くワインに仕込めます。これもボージョレ・ヌーヴォーの成功理由のひとつです。収穫が早ければ、それだけ多少なりとも解禁日まで余裕が生まれるからです。

 ココ・ファーム・ワイナリーのブルース・ガットラブさんは、日本のヌーヴォーに向く品種の条件として(11月中旬の解禁日を想定するなら)、渋味や酸味が穏やかなこと、果実味が豊かなことに加えて、収穫時期が早いことをあげています。ところが日本ではそうした品種を探すよりも前に、早く仕込みたいあまり、まだ成熟しているとは言い難いブドウを早めに収穫してしまう傾向が依然として残っています。造りについても少々無理をしているものもあります(程度の差こそあれ、ボージョレ・ヌーヴォーも同じような問題を抱えているはずです)。

 こうした実態の背景には、ワイナリーの台所事情もあります。大半のワイナリーが原料のブドウの大半を買い付けている以上、秋にはブドウの支払いで借り入れが膨れ上がります。そのブドウで仕込んだワインがすぐに売れれば、懐具合はかなり楽になる。これって無視できないことなのです。ワイナリーだって、収入と支出の繰り返しのもと、経営を成り立たせているのですから。

「新酒は、その年のワインのお披露目のようなもの」。こう言ったのは丸藤葡萄酒工業の大村春夫さんです。グレイスワイナリーの三澤茂計さんは「新酒こそ、ブドウの姿そのものが現れるべき」と、言います。「Signal of Autumn」。こう言ったのはココ・ファーム・ワイナリーのブルース。ブルースは続けます。「でもね、売るワインの半分が新酒なんておかしいよ。ぼくはあくまでも季節商品として考えているよ」。先に紹介したサン・スーフルの微発泡酒(「のぼっこ」)は、この彼の考えが反映されているのです。

 あえて今年は新酒を造らないワイナリーもありました。機山洋酒工業の土屋幸三・由香里夫妻です。それから、先ほどのブドウジュースを造ったフジッコワイナリー・雨宮幸一さんも甲州ブドウの新酒は造りませんでした。私の印象では、両者の甲州種のワインは山梨でもひときわ品質が高く、しかもそれぞれ魅力ある個性を持っています。しかし、彼らは新酒を造らない道を選びました。
「ワインとして、新酒ならではの良さはあるかもしれません。しかし出荷予定日をにらみながら収穫し、最短距離でビンに詰め込まれるワインに、そのビンテージの細やかな風合いを反映させることができるのでしょうか?」と、幸三さんは疑問を投げかけます。
「新酒市場を、“これから作り上げなければならない日本ワイン市場の入り口”として捉えていくためには、日本のワイナリーにも明確な戦略が必要でしょう。ボージョレーの売れ行きを指をくわえてみているだけでは、『日本のワインは秋に新酒を買うだけ』というイメージがむなしく残るだけになりかねません」 

 かつて山梨県では、甲州の新酒は11月1日を一種の解禁日のように捉えていた時期があったようです。その名残りからか、今でも県内の多くのワイナリーは11月1日を目指して、さまざまなワインを造ります。とはいえフライングもたくさんあり、この解禁日はすでに実態がない状況です。
「品種によって収穫日が違うのに、同じ日にワインに仕上げようというのが、無理があるんです」と、先ほどの大村さんは本音を漏らします。大手メーカーのメルシャン勝沼ワイナリーも、以前は11月1日に新酒を出していましたが、今では11月中旬の解禁日に「ヌーヴォー」と銘打って出すようになっています。ワインのスタイルもがらりと変わり、甘口ではなく、あくまでもドライな味わいです。山梨県外のワイナリーには11月1日にこだわらないワイナリーも数多くあります。

 日本のワインの注目度が上がっている今だからこそ、品種ごとの発売日の設定、ワインのスタイルなど、新酒のあるべき姿を問い直す時期ではないのでしょうか? サン・スーフルのワイン、微発泡酒、受注生産、今までのシリーズで紹介したワインやジュースは、こうした彼らの模索の姿でもあるのです。

2005年 12月 15日 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本のヌーヴォーを知っていますか? 最終回:

» ダイヤモンド酒造と山梨ワインのワイナリーでコスモ爆発 トラックバック こんな本を読んだ。(マンガも小説もエッセイも好きだ!エロ・グロ・悪趣味も・・・スキダ・・・)
ワイナリー巡りは楽しい! とゆうわけでまだワイナリーの話です。 まるでブログジャンルが「酒」にかわったかのよう。 酒好きの本好き・・・(太るよね、間違いなく) 体重のことはさておき、ワイナリーです。 ぶどうの丘はたくさんのワイナリーを紹介する、という目的で... 続きを読む

受信: 2005/12/26 20:51:39

コメント

この記事へのコメントは終了しました。