【香川】魚の行商“いただきさん”
こんにちは。高松より、小池よう子です。今回は高松名物“いただきさん”をご紹介します。
高松の街中や近郊でときおり見かける、大きな箱状のサイドカー付き自転車。初めて見る人は「何あれ?」と思うことでしょう。“横付け”と呼ばれるこのサイドカーの中には新鮮な魚介がびっしり。このお魚屋さんの行商が“いただきさん”です。
車もなんのその! ときに立漕ぎで横付けを走らせる、この道40年の“いただきさん”中津さん(75歳)
その名はかつて、桶を頭に載せて魚を運搬していたことに由来します。桶と頭の間に「いただき」と呼ばれるものを載せていたことから「いただきさん」と呼ばれるようになったのだとか。もともとは漁師の奥さんが市場に卸せない雑魚や半端な魚を売り歩いていたのが始まりだそうですが、今は早朝に高松市中央卸売市場で仕入れています。1月のある日、”いただきさん”に同行させていただきました。
朝6時半。市場で魚を仕入れ、“横付け”の冷蔵庫に氷を敷いて魚をきれいに並べます。
この朝、中津さんが買い込んだのはタイ、カマス、タチウオ、カニ、イカ、サバ、カキなど20箱近い量。「えっ、コレ全部ほんとに入るの?」と見ていたら、手品のごとくピッチリ収納。そのほか、包丁、まな板、はかり、魚を包む新聞紙やナイロン袋などなど、商売道具も一式積んだ“横付け”は、どう見ても100キロは軽く超えている模様。これを75歳の小さな身体で引いて走る?アラフォーの私ですら「絶対無理!」と即座に思いました。ところが中津さん、全身の体重を左右交互にペダルにかけ、ゆっくりゆっくり走り出します。
見て下さいこの量! 満杯の荷物を積んだ出発時のスピードは早足程度=時速5キロくらい? 行き交う車もバイクもみんなよけて待っててくれます。
中津さんの仕事時間は「だいたい7時過ぎに市場を出発して夕方5時頃まで」。決まったルートを走り、決まった場所と時間に顔なじみの客が待っています。びっくりしたのは売りさばく手際のよさ。注文を受けた魚は、煮魚用、焼き魚用など用途に合わせて内臓を出したり、切ったり。作業しながらも次の注文を受け、合間の会計も実にスピーディー。そのパワーには驚きました。
そんないただきさん。かつては何十人もいて組織化されていたそうですが、今は組織もなくなり高齢者ばかり十数名が細々と続けているのが現状です。
颯爽と走る中津さん。いつもの場所にいつものファンが待っています。なかにはすれ違いざまに車をUターンさせて来る人も。
「もう私らの世代で終りや」と中津さん。若い後継人がいないことに加え、“横付け”を製造していた自転車屋さんがなくなってしまったのが最大の理由だそうです。今は、行商といっても車に切り替わり、男の人の仕事になってきているのだとか。庶民の台所を支えた高松の風景が消えかかっているのは、本当に残念です。(小池よう子)
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