【ゲスト/長野】北アルプス麓の三蔵
天然水に恵まれて各地に日本酒の酒蔵が点在する長野県。北アルプスの麓・大町市には、酒米(美山錦)産地が近いという立地と北アルプスからの清水を生かした酒造りをしている三蔵があります。また、三蔵が協力し日本酒を楽しんでいただけるような取り組みもなされています。
三蔵は、訪問した順に「白馬錦」の薄井商店、「金蘭黒部」の市野屋商店、「北安大国」の北安醸造。古くから地元の人々に愛飲されてきた蔵元です。訪問した3月下旬には、すでに仕込みは終わり、お酒はタンクに貯蔵されていました。醸造は、酒米が収穫される10月頃から始まり翌年の2月頃までの冬季の作業となります。昔から酒造りは、農閑期の農家の出稼ぎ仕事だったようです。この地域では、小谷(おたり)杜氏による酒造りが伝統的に続いていましたが、最近は地元農家の高齢化などにより、他地域から修行に来て、小谷杜氏の伝統を受け継ぎながらも現代にあった独自の酒造りに取り組む若手の杜氏が活躍しています。
■創業103年を迎える薄井商店は、数年前から地元農家と契約し酒米を栽培しています。北安曇野産美山錦を使用し、繊細でありながらしっかりした味の、飽きのこない「美しい酒」をテーマに酒造りに取り組んでいます。
■市野屋商店の村山杜氏は千葉県市川市出身、Iターンで大町に来て自身も稲作や花の栽培に取り組み、酒米栽培では「合鴨農法」で有機JASの認定を取得しています。自身が栽培したこだわりの酒米を使用した「愛醸純醸(あいかもじゅんじょう)」は杜氏の思いがこもった逸品でしょう。大町市には通称「男水」「女水」と呼ばれている水源があり、それぞれの水を使用した商品もあります。
■北安醸造の「北安大国」は、元々は「大黒正宗」という銘柄。善光寺に通じる街道と、塩の道と呼ばれる生活道の糸魚川街道との分岐点にある大黒石造にちなんだ命名でした。北安醸造は6名で会社を設立し、その家族が代々跡を継いでいます。現在の伊藤社長は30代。杜氏も40代と若いメンバーで「小さい蔵だからできること~生産者の顔が見える」地元を大切にした酒造りに取り組んでいます。
他の地域では珍しいかもしれませんが、三蔵が協力し「三蔵の飲み比べのお酒セット」(※地元の酒問屋と協力して冬季限定)の販売を試み、好評を博しています。また、毎年9月には、隣接した三蔵をそぞろ歩きしながらの飲み比べのイベント「北アルプス三蔵呑み歩き」も開催されます。毎年嗜好を凝らした内容になっており、お酒に合う地域色を生かしたおつまみも用意されています。今年の秋はどんなお酒がたのしめるのか待ち遠しくなってきました。(三水亜矢)
(写真左から)
「薄井商店」 醸造手順を丁寧に教えてくださった専務取締役の薄井様
「市野屋商店」 地道に酒造りに取り組む杜氏の村山様と常務取締役の福島様
「北安醸造」 精米歩合80%の酒造りにも挑戦している代表取締役の伊藤様
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