【ゲスト/シチリア】イギリス人が作ったシチリアの伝統、マルサラワイン
「マルサラワイン」、皆さん耳にされたことはありますか? 「あ~、料理酒ね。お菓子にも使うわね」という声が聞こえてきそうですが、いやいや、マルサラワインはここトラーパニ地方では、れっきとした「飲むためのワイン」なのです。
このマルサラワイン、実は偶然の賜物として作られました。1700年代後半、イギリス商人ジョン・ウッドハウスはシチリア西岸部を航海中、アフリカ大陸からの風、シロッコの影響を受けた悪天候に見舞われ、急遽マルサラという付近の港町に避難することに。上陸したその土地のレストランで偶然飲んだ地ワインが、当時イギリスで流行していたポートワインやマディラワインに似ていたため、ウッドハウスはイギリスで売れるのでは? と考えました。しかし、当時の航海は数カ月と長期に渡り、そのまま持って帰ってはワインが腐ってしまう……。それではアルコールを添加してはどうだろうか? そう、ワインにアルコールを添加したもの、これがマルサラワインの原型なのです(日本ではアルコールを添加することを「酒精強化」と呼びます)。
写真上は、甘口の「タルガ・スペリオーレ・リゼルヴァ」(左)と辛口の「トッレアルサ・ヴェルジネ」。並べてみると、甘口の方が色が濃いのは、モスト・コットが入っているから。/ブドウの木は、地面近くに実が成るように剪定されます(写真下) マルサラワインの基本原料は、①ベースワイン、②ワインから蒸留した添加用アルコール、③ブドウジュースを1/3になるまで煮詰めたモスト・コット(甘味および色と風味の添加)、④ブドウジュースに蒸留したアルコールを加えたミステッラ(甘みの調整)です。これらをブレンドし樽で熟成させるのですが、色、甘さ、熟成年数の3つの観点から様々なタイプに分類されます。また、マルサラ酒はD.O.C.(原産地統制呼称)として、原産ブドウの種類や栽培エリア、醸造方法など全て伝統的な手法を用いるよう定められています。
辛口タイプの「ヴェルジネ」は、マグロの燻製など魚介類のアンティパストと一緒に食前酒として、甘口タイプの「スペリオーレ」はカンノーリやカッサータなど、強烈な甘さのシチリア菓子と共に食後に楽しむ……。これがシチリアでの粋な楽しみ方です。 マルサラワインの老舗、「カンティーネ・フローリオ」の酒蔵(写真左)に一歩入ると、ズラリと並ぶ木の樽が目に飛び込みます。カンティーナの内部に漂う甘~いマルサラワインの香りは、それだけで夢を見させてくれそう。(佐藤礼子)
■私の主宰するラ ターボラ シチリアーナでは、マルサラワインの通訳付き見学ツアーも行なっています。ご興味のある方はホームページ(http://www.tavola-siciliana.com)をご覧下さい。
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